キクユネームの法則
何度かネタにしていますが、私の住んでいるキアンブ・カウンティは、キクユ人(Kikuyu/Gĩkũyũ)という人々の住む地域です。
キクユ人はケニア国内において、人口の約15~17%を占める最大民族集団です。ケニアの初代大統領であり、独立の父として尊敬されるジョモ・ケニヤッタや、彼の息子で現大統領のウフル・ケニヤッタもキクユ人です。
キクユ人は、サブサハラ地域に広く居住する「バントゥー系民族」の一つです。
「バントゥー系民族」とは、言語学的に「バントゥー語群」に分類される言語を話す人々の総称です。バントゥー系民族は、ジャレド・ダイアモンド氏の名著『銃・病原菌・鉄』において、「この5000年間に起こった人口の移動のうちでももっとも劇的な部類に属する」と評された、アフリカ大陸における大規模な拡散を達成した人々であるそうです。
彼らは、現在のナイジェリア・カメルーン辺りに起源を持ち、農耕や牛の牧畜を行っていた人々で、先住民のコイサン人やピグミー人などを追いやりながら南部アフリカや東アフリカへと移動・定住していきました。
そうした人々の中で、現在のケニアの中央高地に定住し、農耕を行った人々がキクユ人というわけです。
さて、本題のキクユ人の名前の法則なのですが、教えてもらっておもしろかったので紹介します。
だいたい多くのキクユ人の名前は、3つの部分からなります。
例として、男女それぞれの名前を設定します。
男性:John Ngugi Njoroge ジョン・ゴゲ・ジョロゲ
女性:Mary Njeri Njoroge メアリー・ジェリ・ジョロゲ
それぞれ、
①ジョン、②ゴゲ、③ジョロゲ
①メアリー、②ジェリ、③ジョロゲ
と分解します。
①の最初の名前が、親などにつけてもらった自分自身の名前です。①の名前は、クリスチャンネームである場合が多いです。
②の名前は、親族から受け継ぐ名前です。例えば、長男であれば父方の祖父から、次男は母方の祖父から、三男は父方の一番年上のおじ、というように、親族からもらう名前です。女性の場合は、長女は父方の祖母、次女なら母方の祖母、三女は父方の一番年上のおば、という具合です。
③の名前は、父親の名前です。既婚女性の場合は、夫の父親の名前になります。
ということで、日本の「姓」にあたるものは、キクユ人の名前にはないそうです。
その人が呼ばれる名前も色々で、自分の個人名・キリスト教徒の洗礼名である①で呼ばれる人もいますし、親族から受け継いだ②の名前で呼ばれる人もいます。父親の名前である③で呼ばれてる人もいるので驚いてしまいます...!
つまり上の例でいけば、ジョン・グギ・ジョロゲさんは、ジョンと呼ばれることもあるし、グギと呼ばれることもあり、人によってはジョロゲと呼ばれる場合もあるということですね。
名乗りの際には、①または②と、③の名前を組み合わせます。
John wa Njoroge ジョン・ワ・ジョロゲとか、Njeri wa Njoroge ジェリ・ワ・ジョロゲみたいな感じですね。
この「wa」は、英語の「of」みたいな意味なので、「ジョロゲの息子のジョン」とか「ジョロゲの娘のジェリ」みたいな意味合いなのかと思います。
ここで気が付いたのは、キクユ人の作家グギ・ワ・ジオンゴ(Ngugi wa Thiong'o)でした。これは「ジオンゴの息子のグギ」っていうことなんですね。
グギ氏は、英語やスワヒリ語での執筆をやめてキクユ語での小説の執筆にこだわる作家なので、もしかするとこの名乗りこそがキクユ人の伝統なのかもしれません。
あと、スワヒリ語を勉強した後は「Ngugi wa Thiong'o」という名前を「ングギ・ワ・ツィオンゴ」みたいに発音したくなるんですけど、キクユ語を勉強すると、「グギ・ワ・ジオンゴ」なんだなというのがわかってきます。もっと言うと「ゴゲ・ワ・ジオンゴ」なのではないか、とかさらにめんどくさい方向へいくわけですが...
あくまでも私がキクユ人何人かから聞き取った話なので、もしかすると正確ではないかもしれませんので、あくまで参考までに。
でも、違うカルチャーの話は、聞いていておもしろいですよね。
この件について、Wikipediaにかなり詳しく解説されているのを発見しました。
キクユ語についてもかなり詳しいですね。キクユ語学習にWikipediaが役立つのかも...?