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×2020年4月→改め2021年3月よりJOCVとしてケニアへ。いろいろ情報発信ができるといいな

キクユ語が難しい話

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「Yu」という名前は英語話者にとってややこしくてわかりにくいので、自己紹介の時は「Kagase」って名乗ってるんですけど、発音しにくいのかカウンタパートは「Kangase」って呼ぶし、たまに前の隊員の名前で呼ばれるし、あと他の人たちは勝手に「Njoroge(ジョロゲ)」とか「Kamau(カマウ)」とかってキクユネームをつけて呼んでくるので、色んな名前で呼ばれすぎて自分の名前がわからなくなった犬のようになっています。

さて、キクユ語が難しいという話なのですが、特に発音で苦戦します。
スワヒリ語という言語は、母音が5つ(a,e,i,o,u)で、かつ基本的に子音と母音が1対1で組み合わされ、アクセントは後ろから2番目の母音という明確なルールがあるため、日本語話者にとって発音しやすい言語だと思います。発音の難しい子音も少ないですし。

一方のキクユ語は、母音が7つあるのがまずめんどくさい。
a,e,i,o,uの5つに加えて、ĩ(iとeの中間の音)と、ũ(uとoの中間の音)というのがあるんですよね。かつてドイツ語を学んだ身としては「ウムラウト(ä、ö、ü)と同じじゃーん」と思ったんですが、めんどくさいのはめんどくさいですよね。

キクユ語は正書法が確立されているので、キクユ語で書かれていれば「ĩ」とか「ũ」みたいに発音補助記号が付いているわけですが、厄介なのは英語/スワヒリ語の中にキクユ語の人名とか地名が出てきた場合ではないでしょうか。

例えば、私が住んでいる場所は「Thika」といいます。
いつも便宜上「ティカ」と表記していますが、”th”の発音は、英語/スワヒリ語では発音記号[θ]で表される音です。日本語だと「ティカ」と「シカ」の中間みたいな感じでしょうか。舌先を前歯の間に挟んで発音するやつです。”think”と同じ音です。

これが、キクユ語になると、まず"th"の音が有声子音[ð]になるようです(キクユ語はわりと有声音化しがちです)。そして、"i"は”ĩ”の音になるようで、キクユ語発音では「ゼカ」って聞こえます。もう全然わかりません。
(そもそも、Thikaという地名の由来はマサイ語にあるという説が有力らしいのですが、それ以上はややこしくなるのでやめときます)

こういう、”i”って表記されてるのに実際の発音は「エ」、"u"って表記されてるのに実際の発音は「オ」というパターンにしばしば遭遇します。

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人名でもそうで、例えば前述した「Njoroge」というのはキクユ人男性の名前なのですが、スワヒリ語読みすると「ンジョロゲ」になります。日本語のように”ン”をはっきりと発音せず、かつアクセントが後ろから2番目の母音に来ることを考慮すれば、「ンジョローゲ」くらいがリアリティのある発音でしょうか。
これがキクユ語発音となると、「ジョローゲ」です。キクユ語では「"nj"と"nd"の”n”は発音しない」という発音規則があるためです。「ン」など飾りですよ。
ややこしいことに、語頭だけでなくて、語中にそんざいするndとnjにも適用されるので、「kenda」(数字の9)の発音は「ケダ」になります。

「Mburu」というキクユ人の男性の名前だと、スワヒリ語発音なら「ンブル」みたいな感じでしょうけど、キクユ語では「ブル」、下手すると「ボロ」に聞こえます。どうやらこの名前の"u"は、実際には"u"じゃなくて"ũ"らしいんですよね...なので、文字で見て名前を知ってるつもりでも、音で聞き取れないこともしばしば。

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他の事例だと、スワヒリ語で父のことを「baba(ババ)」と言います。父なのにババ。
それはさておき。キクユ語でも父のことをbabaと表記するのですが、キクユ語では"b"を"f"の発音で読むので、「baba(ファファ)」です。

ティカの東の端の地域は「Giliba」と言います。
これを英語/スワヒリ語で発音すると「ゴリバ」になるわけですが、実際のところ地元の人は「ゴリファ」というみたいです。
なんかこういうの、正書法を決めるときにもう少しやりようはなかったのでしょうか...って思ってしまいますね。

キクユ語だと”ch”は"sh"の音で発音されるので、私に「China!」って言ってくる人たちの発音も「シャイナ!」になりがちとかね。

そもそも「キクユ」という呼称自体、英語/スワヒリ語で「Kikuyu」って表記されているものの日本語読みなわけですけど、キクユ語だと「Gĩkũyũ」らしいのです。「ギクユ」、いやどっちかというと「ゲコヨ」でしょうか。

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アクセントもまだいまいちつかめてなくて、キクユ語での基本的なあいさつに「wĩmwega(ウェムエガ)=How are you?」→「ndĩmwega(デムエガ)=I'm fine」っていうのがあるんですけど、何回教わって、実際に口にしても未だに正しいアクセントがわかりません。
なんとも掴みどころがない感じがします。

そんなややこしいキクユ語ですが、約600~700万の話者人口がいるそうです。キクユ語話者の大半は母語がキクユ語のはずなので、おそらくスワヒリ語母語とする人よりも多いと思います。(スワヒリ語ケニア公用語ですが、母語とする人は海岸地域などの人々に限られるので)
キクユ語のラジオとかテレビ放送もあるんです。

週一回オンラインで勉強してるだけなので、なかなか上達しないのはしょうがないですけど、ちょっとずつ勉強していきたいと思います。